THE ROAD TO NEW YORK ~ニューヨークへの道~
episode 3
6月25日。
龍玄氏の自宅に遊びに行く日の明け方、早く目が覚めた俺に一つの思いが降りてきた。
“書をやりたい。龍玄氏に書を習いたい”
元々、突然筆ペンで字を書きたくなる時はあったが、ここまで書をやりたいと言う強い衝動は初めてだった。
その衝動を抱えたまま、龍玄氏の自宅に向かった。
まっすぐ行ったら片道二時間。
とても楽しい旅。
途中の横浜駅でお土産を買って京急三崎口行きに乗る。
駅で迎えてくれた龍玄氏がランチに誘ってくれた。
三崎漁港直送の海鮮を使った海鮮ランチ。
やはりうまい。
個展の感想等を話したりの楽しいランチの後に御自宅へ向かう。
玄関をくぐった後、龍玄氏がこう言った。
『ひろさん、ようこそ。よくたどり着きましたね。
実はこの家は結界が張ってあって、御縁が無い方は台風が来たり電車が止まったりで辿り着かないようなんです。
ひろさんが来たら雨もやみましたし、きっと御縁があるんでしょうね。』
ありがたい。
どうも龍玄氏とは御縁があるらしい。
前世の御縁?
実は年齢は俺の方が結構上だが、この方とは最初に逢った時から年上のような感覚を抱いていた。
前世でも子弟関係だったのだろうか?
確かな事はわからないが、そんな感覚を抱きつつ、今朝降りてきた思いを切り出した。
『俺に、書を教えてくれませんか?』
『いや~。書道教室とかは、始めると生徒さんが居る以上簡単には辞められなくなっちゃうし、創作の時間が無くなってしまうのでやらない事にしてるんですよ。』
との事。
どうしても書をやりたいと言う思いに突き動かされている俺は簡単に諦めるわけにはいかない。
続けてこう言った。
『じゃあじゃあ。いつ辞めても良いので、月に一回俺と、筆と墨と紙を使って遊んでもらえませんか?』
龍玄氏はこう言った。
『あぁ、それなら楽しそうですね。やりましょう。』
我ながら自分の交渉力を褒めてやりたい。
と言いたいところだが、全ては龍玄氏の懐の深さと、何かの導きのお陰だろう。
それは俺の人生が大きく動いた瞬間だった。
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